煎茶道とは?茶道の違いや歴史について解説

煎茶道の概要

煎茶道(せんちゃどう)は、煎茶を用いて茶を点て、その過程や作法を通じて心の静寂や美を追求する日本の伝統的な茶道の一つです。抹茶を使用する「茶道」とは異なり、煎茶道は主に煎茶(細かく刻んだ茶葉を熱湯で煎じるもの)を使います。18世紀後半に文人たちの間で広まり、現在も多くの愛好者によって受け継がれています。

参考…文化庁「令和5年度生活文化調査研究事業(煎茶道)報告書

煎茶道の歴史

煎茶道の起源は、江戸時代中期の文人文化にあります。中国の文人茶の影響を受け、日本でも文人たちが煎茶を楽しむようになりました。煎茶道の発展には、隠元禅師(いんげんぜんし)売茶翁(ばいさおう)石川丈山(いしかわじょうざん)などの人物が重要な役割を果たしました。

隠元禅師は日本に急須や煎茶の文化をもたらし、日本に煎茶趣味を根付かせました。また売茶翁は、江戸時代に煎茶を広めたことで知られる人物で、彼の活動により煎茶の習慣は一般庶民にも広がりました。また、石川丈山は「煎茶の開祖」としても知られていますが、彼が実際に煎茶道を確立したわけではなく、彼の生活や思想が煎茶道の理念に大きな影響を与えたとされています。

煎茶道の作法と精神

煎茶道には、抹茶道と同様に様々な”煎茶道の作法”があります。まず、茶器の準備から始まり、茶葉を適切な量と温度の湯で煎じ、茶碗に注いで供します。茶を点てる過程は一連の儀式として行われ、その中で心を静め、相手へのもてなしの心を表現します。

煎茶道の道具

煎茶道に使用される道具は多岐にわたります。代表的なものとしては、煎茶碗宝瓶、茶托、帛紗(袱紗)、湯冷まし、涼炉などがあります。これらの道具は、茶の風味を最大限に引き出すために工夫されています。

特に、煎茶道では茶器の美しさも重要視されます。茶碗や急須は、陶器や磁器、漆器など様々な素材で作られ、茶室の雰囲気に合わせて選ばれます。また、茶器の選定には季節感も大切にされ、四季折々の風情を楽しむことができます。

煎茶道具についてさらに詳細に知りたい方は、煎茶道具一覧ページをご覧ください。

煎茶道の流派

煎茶道には、一般的に「家元」または「宗家」と呼ばれる指導者を中心とした”煎茶道の流派”が存在し、それぞれの流派が独自の煎茶の作法を受け継ぎ、煎茶道の普及や発展に向けた活動を行っています。

2000年に発行された『煎茶便利帳』の「全国の煎茶道流派案内」では、41の流派が紹介されています。また、2013年の時点では、150を超える流派が活動しているとも言われています。

代表的な流派としては、日本最古の流派として有名な「花月庵流」や「小川流」「美風流」などがあります。

煎茶道の流派一覧についてはこちらの記事をご覧ください。

  • 花月庵流:大阪にある流派で、多くの煎茶道の流派の基礎となっている伝統的な流派
  • 小川流:京都煎茶会を代表する流派。御典医であった始祖の影響がお手前に見られます
  • 美風流:伝統的な煎茶趣味をベースとする本格的な流派

参考

主婦の友社編『煎茶便利帳』(主婦の友社、2000年)、p.184-191「全国の煎茶道流派案内」

大槻幹郎「売茶翁以前、売茶翁以後」(『目の眼』2013年10月号、p.31)

煎茶道の流派の違い

煎茶道には、さまざまな流派が存在し、それぞれの流派には独自の作法や美学、歴史的背景があります。煎茶道の流派は、大きく分けて茶道の文化を参考にしたものと文人文化に根ざしたものが多く、中国の文化や思想を背景に発展しました。

煎茶道と抹茶道の違い

煎茶道茶道は、どちらも日本の伝統的な日本茶を楽しむ文化ですが、使用する茶の種類や道具、精神性、形式などに違いがあります。

茶の種類の違い

煎茶道では、煎茶(せんちゃ)という茶葉を用いてお茶を点てます。煎茶は、緑茶の一種で、摘んだ茶葉を蒸して揉み、乾燥させて作られます。煎茶は、茶葉の香りや味わいを楽しむために、お湯を使って淹れるのが特徴です。一方、茶道では抹茶を使用します。抹茶は、茶葉を粉末状にしたもので、茶筅(ちゃせん)という道具を使って、湯と一緒に泡立てるように点てます。抹茶は、煎茶と異なり、茶葉そのものを飲むため、濃厚な味わいと独特の苦味があります。

精神性の違い

茶道は、禅の思想と深く結びついており、「わびさび」や「一期一会」といった概念が大切にされます。茶室での静かな時間を通じて、心を落ち着かせ、内面的な精神修養を重んじる点が強調されます。抹茶を点てる作法や礼儀作法も、心を無にして集中することを目的としています。

煎茶道は、より文人的な精神性に基づいています。中国の文人文化の影響を受けた煎茶道は、知識人や芸術家が自然の中でお茶を楽しみ、詩や書、南画水墨画を嗜みながら談笑する場として発展しました。茶を楽しむこと自体よりも、文化的交流や知識を深める場としての側面が強いです。

煎茶道のお茶会

煎茶道の茶会では、急須を用いてお客様に玉露や煎茶をお出しします。お客様はお茶に合わせて和菓子をお召し上がりになり、茶室の設えや床の間、茶庭などをの楽しみます。煎茶道の茶会については下記の記事も合わせてご覧ください。

煎茶道の魅力

煎茶道の魅力は、その静寂と美にあります。茶を点てる過程で心を落ち着かせ、自然の中で茶を楽しむことで、日常の喧騒から離れたひとときを過ごすことができます。また、季節ごとの風情を楽しむことができ、茶器や茶室の美しさも一つの魅力です。

さらに、煎茶道は日本文化の深さを感じさせるものであり、その歴史や作法、道具の美しさを通じて、日本の伝統と精神を学ぶことができます。特に、現代の忙しい生活の中で心を静める時間を持つことは、心身のリフレッシュにも繋がります。床の間に飾られる禅語の掛軸やお香、飾りつけを楽しんだりと、日本人であることをの楽しめます。

煎茶道で使われる禅語についてもっと詳細に知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

煎茶道を習うには

煎茶道を実践するには、専門の教室やサークルに参加するのが一般的です。多くの都市には煎茶道の教室があり、初心者でも気軽に始めることができます。茶道具の購入や茶室の整備など、初期費用がかかる場合もありますが、基本的な道具さえ揃えれば自宅でも楽しむことができます。

また、煎茶道は特別な場面だけでなく、日常生活の中でも実践することが可能です。自宅でのティータイムに煎茶道の作法を取り入れることで、日常の一瞬を特別な時間に変えることができます。

みんなの日本茶サロンでは、オンラインで煎茶道を体験できるワークショップをご用意しておりますので、下記の記事も合わせてご覧ください。

まとめ

煎茶道は、日本の伝統的な茶文化の一つとして、歴史とともに多くの人々に愛され続けています。その作法や精神、道具の美しさは、日常生活に安らぎと豊かさをもたらしてくれます。忙しい現代において、煎茶道を通じて心を静め、自然との調和を感じることは、大変意義深いことです。興味を持った方は、ぜひ煎茶道の世界に触れてみてください。

投稿者プロフィール

東叡庵
東叡庵煎茶講師/日本文化PRマーケター
宮城県出身。
仙台の大学卒業後、500年の歴史を誇る老舗和菓子屋に入社。京都にて文人趣味や煎茶道、生け花、民俗画を学び、日本文化への造詣を深める。和菓子屋での経験を活かし、その後、日本文化専門のマーケティング会社でブランディングとPRマーケティングに従事。現在はフリーランスの茶人として活動しながら、日本文化のPRサポートや「みんなの日本茶サロン」を主宰。伝統と現代を結びつける活動を通じて、日本文化の魅力を広めている。みんなの日本茶サロン編集長。