祖父と仙台市の老舗和菓子屋「売茶翁」

売茶翁についてさらに詳細に知りたい方は下記の記事をご覧ください。

私の祖父は、京都から仙台に移住して50年の煎茶道の先生です。祖父の煎茶道教室は、静けさと深い精神性が息づく場所であり、その中で特に大切にされているのが、煎茶に合わせる和菓子です。祖父は、教室での茶会やお稽古の際に、仙台市青葉区春日町にある老舗和菓子屋「売茶翁」の季節の生菓子や「みちのくせんべい」、干菓子を生徒たちに提供してきました。

「売茶翁」は、明治12年に創業され、昭和22年に現在の場所に移転しました。この店は、伝統的な製法を守り続けながら、季節ごとに美しい和菓子を作り続けています。祖父にとって「売茶翁」はただの和菓子屋ではなく、京都を思い出させる懐かしい存在でもありました。店名の由来となっている「売茶翁」は、京都で活躍した禅僧であり、煎茶道の祖とされています。祖父は、その名に惹かれてこの店を訪れるようになったのかもしれません。

祖父の煎茶道教室では、毎回の茶会やお稽古の際に、季節に応じた和菓子が登場します。春には桜餅や草餅、夏には水羊羹や涼やかな葛菓子、秋には栗蒸し羊羹や柿の形をした練り切り、冬には雪見だいふくやこたつにぴったりの焼き菓子など、四季折々の和菓子が、祖父の茶会を彩ってきました。生徒たちは、その繊細で美しい和菓子に触れることで、煎茶道の精神と共に、日本の四季を感じることができたのです。

特に、祖父が愛してやまないのが「売茶翁」の**「みちのくせんべい」**です。このせんべいは、素朴な味わいと軽やかな食感が特徴で、煎茶の繊細な味わいを引き立てるのにぴったりです。生徒たちは、煎茶を一口含んだ後に「みちのくせんべい」を楽しむことで、煎茶の深い味わいをさらに感じ取ることができたと祖父はよく話していました。

また、祖父は「売茶翁」の**「干菓子」**も大切にしていました。干菓子は、その美しい形や色合いが茶席を華やかにし、煎茶の静寂と調和する存在です。祖父は、茶会の度に季節に合った干菓子を選び、生徒たちに提供してきました。その際、祖父は和菓子の美しさや味わいについて、丁寧に説明することを忘れませんでした。それは、ただ和菓子を食べるだけでなく、和菓子を通じて日本の文化や美意識を学んでもらいたいという祖父の思いが込められていたからです。

祖父の家でも、「売茶翁」の和菓子は日常の一部でした。祖父は特に**「羊羹」**を好んでいましたが、それもまた「売茶翁」のこだわりの品でした。祖父が選んだ羊羹は、丹波大納言、丹波白小豆、備中白小豆など、国産の豆にこだわった逸品ばかりでした。これらの羊羹は、素材の持つ自然な甘さが引き出されており、祖父はその風味を心から楽しんでいました。

祖父は、煎茶を淹れるとき、よく「売茶翁」の羊羹を添えて私たちに出してくれました。そのとき、祖父はいつも「この羊羹は本当にいい豆を使っているんだ」と言いながら、ゆっくりと切り分けてくれました。その姿を見て、私は祖父がこの和菓子をいかに大切にしているかを感じ取ることができました。

また、季節ごとの**「生菓子」**も祖父の家では欠かせない存在でした。春には桜の花びらを模した練り切りや、夏には涼やかな水羊羹、秋には栗を使った和菓子、冬には雪のように真っ白な餅菓子など、祖父はその季節ごとの味を楽しんでいました。祖父が生菓子を口に運ぶとき、その表情は穏やかで、心から和菓子を楽しんでいるのが伝わってきました。

「売茶翁」は、単なる和菓子屋ではありませんでした。祖父にとって、それは故郷・京都を思い出させる場所でもあり、また、煎茶道を通じて生徒たちに日本の伝統文化を伝える手助けをしてくれる存在でもありました。祖父が仙台に移り住んでからも、京都の風を感じさせる「売茶翁」の和菓子が、祖父の心に故郷のぬくもりを運んでくれていたのです。

祖父は、煎茶道の教室で「売茶翁」の和菓子を通じて、ただ煎茶を楽しむだけでなく、和菓子の背景にある日本の文化や歴史を生徒たちに伝えることを大切にしていました。祖父が「売茶翁」の和菓子を選ぶとき、その選び方には慎重さと深い思いが込められていました。それは、和菓子を通じて生徒たちに何かを伝えたいという祖父の願いがあったからこそでしょう。

私は、祖父が故郷である京都を思い出しながら、「売茶翁」の和菓子を愛し続けたことを、心から尊敬しています。祖父の煎茶道教室で育まれた和の心は、私にも深く根付いており、「売茶翁」の和菓子を味わうたびに、祖父との思い出が蘇ります。

「売茶翁」は、ただの老舗和菓子屋ではありません。その和菓子には、祖父が愛した京都の風景や、祖父が生徒たちに伝えたかった日本の美意識が詰まっています。祖父が選んだ和菓子を通じて、私もまた、日本の伝統文化の深さを感じ取りました。

これからも、祖父が愛した「売茶翁」の和菓子を通じて、その精神を受け継ぎ、次の世代にも伝えていきたいと思います。祖父が大切にしてきたものを守り続けることが、私にとっての使命でもあります。

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