仙台市青葉区春日町の老舗和菓子屋「売茶翁」と留学生

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仙台市青葉区春日町の老舗和菓子屋「売茶翁」と留学生

仙台市青葉区春日町にある老舗和菓子屋「売茶翁」。ここは、私の心の中で特別な存在です。長い歴史を持つこのお店の和菓子は、地元の人々だけでなく、遠く異国からの留学生にも愛されています。私が仙台で出会ったタイからの留学生も、その一人です。

彼女との出会いは、ある茶道教室でのことでした。東北大学の3年生である彼女は、茶道華道香道といった日本芸道に深い興味を持ち、日本の伝統文化を学びたいという強い意志を持っていました。彼女が初めて私の茶道教室に参加したとき、その真剣な眼差しと丁寧な所作に、私はすぐに彼女が茶道に対して抱く熱い思いを感じました。

茶道教室では、毎回異なる和菓子を用意しますが、その中でも「売茶翁」の和菓子は彼女のお気に入りでした。特に「みちのくせんべい」と「どら焼」は、彼女にとって特別なものでした。彼女が初めて「みちのくせんべい」を口にしたときのことを、今でも鮮明に覚えています。

「みちのくせんべい」は、ほんのり甘く、程よい歯ごたえがあり、その素朴な味わいが魅力です。彼女はその味わいに感動し、「このせんべいは、日本の自然の恵みと伝統が詰まっているようです」と言っていました。その言葉には、彼女がこの和菓子に対して抱く深い敬意と愛情が込められていました。

また、「どら焼」も彼女にとって特別な存在でした。ふんわりとした生地と甘さ控えめの餡が絶妙なバランスで、彼女は「どら焼の中に、日本の心が詰まっているように感じます」と語っていました。特に「売茶翁」のどら焼は、餡の風味が豊かで、一口食べるたびに彼女の顔には笑顔が広がりました。

彼女がタイから両親を迎えたときも、「売茶翁」の和菓子は大切なおもてなしの一部でした。彼女の両親もまた、和菓子の繊細な味わいに感銘を受け、「このような美しい味が日本にはあるのですね」と驚いていました。彼女が両親に「みちのくせんべい」や「どら焼」を手渡す姿を見て、私は彼女の心の中にある日本とタイ、そして家族の絆が感じられました。

「売茶翁」の和菓子は、彼女にとって単なるお菓子ではなく、彼女の留学生活を支える心の拠り所でした。特に、家で日本茶と一緒に楽しむ生菓子や「のうこう」は、彼女が日本の四季を感じ、日々の生活に彩りを与える存在でした。留学生活の中で、彼女は「売茶翁」の和菓子を通じて、日本の文化や季節の移ろいを感じ取っていたのです。

「売茶翁」の和菓子は、彼女にとって日本の象徴であり、異国での生活に温かさをもたらす存在でした。和菓子を通じて日本の伝統に触れ、さらにその味わいを家族と共有することで、彼女は自分自身のルーツやアイデンティティを再確認していたのではないかと思います。

今でも、茶道教室で「売茶翁」の和菓子を陶器の銘々皿にのせて用意すると、彼女の笑顔を思い出します。彼女が留学を終えてタイに戻る日が来たとき、彼女は「売茶翁」の和菓子をたくさん買い込んで、故郷に持ち帰ることを楽しみにしていると話していました。彼女が帰国しても、これらの和菓子が彼女にとっての日本の思い出として、ずっと心に残り続けることでしょう。

仙台の「売茶翁」は、ただの和菓子屋ではありません。異国から来た留学生たちに、日本の心を伝える架け橋としての役割を果たしているのです。彼女にとって「売茶翁」の和菓子は、日本での留学生活の象徴であり、また新たな故郷の味として、彼女の人生に深い影響を与え続けることでしょう。

投稿者プロフィール

東叡庵
東叡庵煎茶講師/日本文化PRマーケター
宮城県出身。
仙台の大学卒業後、500年の歴史を誇る老舗和菓子屋に入社。京都にて文人趣味や煎茶道、生け花、民俗画を学び、日本文化への造詣を深める。和菓子屋での経験を活かし、その後、日本文化専門のマーケティング会社でブランディングとPRマーケティングに従事。現在はフリーランスの茶人として活動しながら、日本文化のPRサポートや「みんなの日本茶サロン」を主宰。伝統と現代を結びつける活動を通じて、日本文化の魅力を広めている。みんなの日本茶サロン編集長。