茶道の掛軸「吾心似秋月」の意味や読み方とは?寒山詩についても解説!

茶道の世界で用いられる掛軸は、その一つ一つに深い意味が込められており、茶室に掛けられることで、茶会の主題や季節感、また亭主の心を表現するものとして重要な役割を果たします。その中でも「吾心似秋月(ごしんししゅうげつ)」という言葉は、深い哲学と清らかな心境を伝える言葉として知られています。この記事では、この言葉の意味や背景、そして禅の世界における「寒山詩」についても解説します。

1. 「吾心似秋月」の読み方

「吾心似秋月」は、「ごしんししゅうげつ」 と読みます。この言葉は、「吾(われが)心は秋の月に似たり」という意味を持ち、禅の世界でよく使われる表現の一つです。特に茶道においては、精神的な清澄さや穏やかさを象徴する言葉として用いられます。

  • 吾心(ごしん):私の心。
  • 似(に):〜に似ている。
  • 秋月(しゅうげつ):秋の月。

この掛軸を茶室に掛けることで、亭主は自身の心を秋の澄んだ月のように穏やかで清らかであることを示し、客人にもその心境を伝えようとします。

2. 「吾心似秋月」の意味

「吾心似秋月」という言葉は、心の静寂と清浄さを象徴しています。秋の月は、夜空に浮かぶ澄んだ月を指し、雲一つない空に輝くその姿は、濁りのない心、雑念から解放された心を表現しています。

  • 清澄な心:秋の月は、夜空に静かに輝くものです。その光は澄んでいて、穢れや混乱を感じさせません。「吾心似秋月」は、このような澄んだ心を理想とする禅の教えを反映しており、心を静かに保つことで内面的な平穏を得ることを意味しています。
  • 悟りの象徴:また、秋の月の澄んだ輝きは、仏教における悟りの象徴とも言えます。雑念や欲望にとらわれることなく、ありのままの自分を見つめる心の状態が、秋の月にたとえられています。このように、「吾心似秋月」は、悟りの境地を目指す禅の修行において重要な意味を持つ言葉です。
  • 心の安定と調和:茶道においては、心を安定させ、客人をもてなすために精神的な調和が重要です。「吾心似秋月」という言葉は、亭主がそのような清浄な心を持ち、茶会を通じてお客様にもその心地よさを提供しようという意図を示しています。

3. 寒山詩について

「吾心似秋月」は、禅僧である寒山(かんざん)によって詠まれた詩「寒山詩(かんざんし)」の一節から引用された言葉です。寒山詩は、中国唐代の詩僧であった寒山が詠んだ詩の集まりで、その詩は禅の教えを基にした哲学的な内容が多く含まれています。

  • 寒山(かんざん):寒山は、唐代の禅僧であり、山奥に隠棲して詩を作りながら悟りの道を追求しました。その詩は、人生や自然、心のあり方についての洞察を多く含んでおり、禅の世界で広く愛されています。
  • 寒山詩の特徴:寒山詩は、自然との調和や、心の内面に対する深い洞察が特徴です。寒山は、自然の中で心を清め、世俗の煩わしさから離れることで悟りに至ることを詩に表現しています。彼の詩はシンプルながらも深い哲学を持ち、現代でも多くの人に影響を与え続けています。

寒山詩において、「吾心似秋月」という表現は、心が清浄である状態を月にたとえたものです。これは、心を無にし、煩悩や雑念から解放された境地を表しています。

4. 茶道における「吾心似秋月」の役割

茶道の掛軸に「吾心似秋月」を選ぶことで、亭主はその場に集う人々に清らかな心を表現します。特に、茶道の世界では心の状態が重要視されており、茶を点てる際や客人をもてなす際の心構えをこの言葉で示すことができます。

  • 清らかな心で客人を迎える:茶道の基本理念は、心を整え、客人に心からのおもてなしを提供することです。「吾心似秋月」の掛軸を茶室に掛けることで、亭主は心を澄ませ、客人にもその静かな心の状態を感じてもらうことを目指します。
  • 禅の精神を伝える:茶道は禅と深く結びついており、その精神を茶会の中で体現することが重要です。「吾心似秋月」は、禅の悟りや心の清浄さを表す言葉として、茶会において禅の教えを象徴する役割を果たします。
  • 季節感の表現:秋の月の美しさを象徴するこの掛軸は、秋の茶会で特に使われることが多く、茶室に季節感をもたらします。秋は収穫の季節であり、自然が最も豊かに実る時期です。その豊かさを味わいながら、心もまた清らかであることを象徴する掛軸として、秋の茶会に最適です。

5. 日常生活における「吾心似秋月」の教え

「吾心似秋月」は、茶道や禅の教えに留まらず、日常生活においても心のあり方を示唆する言葉です。

  • 心を穏やかに保つ:日々の生活の中で、様々なストレスや雑念に心が乱されることがありますが、この言葉を心に留めることで、常に心を澄ませ、冷静な状態を保つことを意識できます。
  • 無駄な欲望や煩悩から解放される:秋の月のように心をクリアに保つことで、不要な欲望や煩悩に囚われることなく、ありのままの自分を見つめ直すことができます。

6. まとめ

「吾心似秋月」は、心の清浄さと静寂を象徴する言葉であり、茶道の世界や禅の教えにおいて重要な役割を果たしています。秋の月にたとえられたこの言葉は、心を無にし、澄んだ状態でいることの大切さを伝え、茶会を通じてその清らかな心を客人に届けるための掛軸として使用されます。

また、寒山詩の一節から引用されたこの言葉は、心の内面に対する深い洞察を与える詩の一部であり、現代の生活においても心を静かに保つための教訓として生かすことができます。日常生活でもこの言葉を思い出し、心の調和を意識することで、より豊かな心の状態を保つことができるでしょう。

投稿者プロフィール

東叡庵
東叡庵煎茶道講師/日本文化PRマーケター
宮城県出身。
仙台の大学卒業後、500年の歴史を誇る老舗和菓子屋に入社。京都にて文人趣味や煎茶道、生け花、民俗画を学び、日本文化への造詣を深める。和菓子屋での経験を活かし、その後、日本文化専門のマーケティング会社でブランディングとPRマーケティングに従事。現在はフリーランスの茶人として活動しながら、日本文化のPRサポートや「みんなの日本茶サロン」を主宰。伝統と現代を結びつける活動を通じて、日本文化の魅力を広めている。みんなの日本茶サロン編集長。