木魚はなぜ「魚の形」?理由や由来、仏具としての意味、歴史、叩く理由を解説

「ぽくぽくぽく」と、仏壇がある家庭なら聞こえてくるこの音は、木魚をたたく音です。

独特の形状をしている、まるで木製楽器のような音を出すこの木魚は、なぜ仏壇に必須の道具となったのでしょうか。

本記事では、木魚の由来や魚の形の理由、歴史、叩く理由などを分かりやすく解説していきます。

木魚とは

木魚とは、仏教における読経の際に、一緒に打ち鳴らすことによってリズムをとるのに使われる法具です。また広いお寺の境内で、木魚を打ち鳴らすことによって修行僧を集めるために使用するお寺もあります。

参考…楽器図鑑木魚(もくぎょ) – 文化デジタルライブラリー

木魚の原材料

木魚の原材料は国産の木材が多く、中でも楠(くすのき)や桑(くわ)などの丸太を材料として、職人が一から手作りで作業します

木魚が魚の形の理由

「木魚はなぜ魚の形をしているの?」

こういうお声をよく聞きます。

木魚が魚の形である理由は、かつて木魚が魚の形をしていた魚は眠るときも目を開けたまま眠るため、そこからデザインされたと言われています。 昔、魚は眠らない生き物だと信じられていて、魚を見習って眠気を払おうと、木魚が魚の形になったのです。 木魚はもともと魚の形をした木の板で、これを叩いて時間を知らせていた。

木魚の歴史

木魚の歴史は古く、室町時代にさかのぼります。室町時代の禅宗寺院の中では、すでに大衆を集める合図として木製の鳴り物が使用されていたことが分かっています。

室町時代の木魚

室町時代に使用されていた木魚が、山梨県山梨市にある飯雲光寺にあります。数百年前の木魚がどんな音がするのか、気になりますね。

飯雲光寺は、寺記によると応永2年(1395)に再興された禅宗の寺院と伝えられています。
この寺の木魚はケヤキの根元で造られており、刻銘によれば、応永4年、寺が再興された直後に作られた古い時代のものですが、今もなお使われている大切な遺品です。
大きさは縦46.5cm、横49.0cm、高さ31.0cm、重さは約21.7kgほどあります。
木魚は読経の際に打ち鳴らす法具の一つで、用材は一般に堅めの広葉樹が使われています。

引用:木魚 – 山梨県山梨市オフィシャルサイト『誇れる日本を、ここ山梨市から。』  

木魚の由来

魚とは言いがたい丸い形なのに、なぜ「木の魚」なのか?

木魚は、元々は「開梛(かいぱん)」や「魚板(ぎょばん)」と呼ばれる、平らな魚の形をしていました。開梛とは、食事をする庫裡の近くの天井につるして修行僧を集めるために打つ禅宗寺院の法具です。 木製で大きな鯉(こい)形または鯱(しゃち)形をし、腹中を刳(く)ってあり、水平につるして木槌(きづち)で打ち鳴らして音を出します。ほかにも梆(ほう)や魚梆(ぎょほう)と呼ばれたそうです。

木魚の由来である「開梛(かいぱん)」の歴史

木魚の原型は、江戸時代初期に中国から日本に伝わった「開梛(かいぱん)」に由来します。この開梛は、黄檗禅宗の高僧である隠元禅師が、明から日本に渡り、京都宇治市の萬福寺に伝えたものです。隠元禅師は、17世紀に中国から来日し、黄檗禅宗を広めるとともに、多くの仏教用具や修行の方法も持ち込んだとされています。

萬福寺の開梛は、現在でも使用されており、境内で時刻を知らせるために音を鳴らしています。開梛は、木魚とは異なり、下腹部に穴が開けられた中空の構造を持ち、叩くことで大きな音を発するようになっています。この構造は、音の響きを最大化するために工夫されたものです。

修行僧が開梛を叩くのは、単なる時刻を知らせるためだけでなく、精神的な修行にも関連しています。開梛を叩くことによって、体内から欲心や煩悩などの雑念を排除する修行の一環として使われてきたのです。

木魚をたたく理由とは

木魚を叩く理由には、宗教的な意味が込められています。お経を唱える際に木魚を叩くのは、主に以下の二つの理由があります。

修行の象徴

木魚は、魚の形を模した仏具であり、その形には特別な意味が込められています。魚は常に目を開けている生物であるため、木魚を叩くことで修行僧が「魚のように目を開けて修行に励むべし」との教訓が込められています。つまり、木魚を叩くことは、心を開き、常に注意深くいることを促す修行の一環とされています。

集中力の保持

昔の修行僧たちは、お経を唱える際に一定のリズムで木魚を叩くことで、集中力を高めると同時に眠気を覚ますために用いました。特に長時間の修行や読経では、集中力が途切れやすく、眠気を感じることが多かったため、木魚のリズムによって心を引き締める役割を果たしました。

木魚の種類

木魚の種類は多く、大きさや形状、装飾によって分類分けされています。

代表的な木魚をご紹介します。

日本一巨大な木魚@龍徳寺

日本一巨大な木魚を北海道の龍徳寺で見ることができます。

龍徳寺は、北海道小樽市にある曹洞宗の寺院です。

龍徳寺の本堂は市内で最古の寺院本堂で、小樽市指定歴史建造物に認定されています。

境内では、直径1.3m、高さ1m、重さ330kg、4㎏のばいで叩く日本一大きい木魚を見ることができます。

龍徳寺の基本情報

  • 所在地: 〒047-0003 北海道小樽市真栄1丁目3−8
  • 電話: 0134-22-0523
  • アクセス:札樽自動車道「小樽IC」にて下車、日本海オロロンラインを西に約5分ほどで到着

日本最古の木魚「開梛(かいぱん)」@萬福寺

日本最古の開梛は、京都府の萬福寺で見ることができます。

萬福寺は、京都府宇治市にある黄檗禅宗の寺院で、法堂は国宝に指定されています。

境内の南側にある庫裡の前には、いまでも開梛が天井から吊るされています。

萬福寺の基本情報

  • 所在地: 〒611-0011 京都府宇治市五ケ庄三番割34
  • 営業時間:9時~17時
  • 電話: 0774-32-3900

木魚の使い方

木魚の使い方は、バチで叩き音を出して使います。その際に木魚は座布団にのせておきます。

木魚の下に敷く座布団には、床と木魚がこすれて傷つかないためと、叩いている時に木魚がすべって動いたりしないようする役割があります。

また座布団の柔らかさや木魚と接している面積で、音の響きや高低などの音程が変わります

木魚を使う宗派

木魚はさまざまな宗派で使われています。

・臨済宗

・曹洞宗

・黄檗宗

・天台宗

・真言宗

・浄土宗

などなど。

木魚の作り方と製造工程

木魚は、楠(くすのき)や桑(くわ)などの木材を使用し、職人の手作業で一から丁寧に作られます。以下にその製造工程をご紹介します。

第1工程:木取り

まず、2~3年間寝かせた楠や桑の木の丸太を、木魚のサイズに合わせた切り幅で輪切りにします。この段階で、木の縁や角などの余分な部分を取り除き、木魚の大まかな形に整えます。

第2工程:整形

次に、木材をノミとカンナを使って実寸の大きさと形に整えます。この工程で木魚の具体的な形状が決まります。

第3工程:中彫り

木魚の内部に空洞を作るため、中彫り用の特注ノミを用いて内部をくり抜きます。この作業により、木魚の独特の音色が生まれます。

第4工程:乾燥

木魚を自然乾燥させるために、サイズによって1~10年間ほど陰干しします。この工程で木材がしっかりと乾燥し、品質が安定します。

第5工程:彫刻

木魚の表面に飾りを施します。注文に応じて、取っ手や本体表面に様々な彫刻が施され、木魚に個性が加えられます。

第6工程:研磨

表面を滑らかにするために、紙やすりで磨きます。その後、艶出しワックスで仕上げることで、美しい光沢を持つ木魚が完成します。

第7工程:音付け

木魚のサイズと木質に応じて、最高の音が出るように最終調整を行います。この工程で木魚の音色が決まります。

参考:大阪教育大学

現在日本で活躍する木魚職人や工房の情報

以下に、現在日本で活躍する木魚職人や工房の情報をご紹介します。これらの工房では、伝統的な技術と熟練の技で木魚を製造しています。


現在日本で活躍する木魚職人や工房の情報

市川木魚製造所

市川木魚製造所は、伝統的な木魚作りを続ける老舗の工房です。高い技術力と経験を持つ職人が、細部までこだわった木魚を手作りしています。木の質感と音色に定評があり、多くの寺院や仏教関係者に愛されています。

加藤木魚製造所

加藤木魚製造所は、職人の技が光る工房で、長年の経験をもとに高品質な木魚を製造しています。特に音色にこだわり、使用する木材や製造方法に工夫を凝らしており、宗教行事や仏教用具としても重宝されています。

深田木工所

深田木工所は、精密な木工技術で知られる工房です。木魚の製造においても、その技術力を発揮し、繊細で美しい木魚を作り出しています。デザインと機能性を兼ね備えた製品を提供し、多くの顧客から信頼を寄せられています。

久保田木魚

久保田木魚は、伝統と革新を融合させた木魚作りを行っている工房です。職人の熟練した技術と最新の製造技術を取り入れ、音色と美しさを両立させた木魚を製造しています。個性的なデザインと高品質な製品が特徴です。

加藤木魚工房

加藤木魚工房は、細部までこだわった木魚作りを行っており、熟練の職人が手作業で一つ一つ丁寧に製造しています。使用する木材の選定から製造工程まで、全てにこだわりがあり、品質の高い木魚を提供しています。

木魚工房 久洋

木魚工房 久洋は、伝統的な技術を守りながらも現代のニーズに応えた木魚作りを行っています。木の風合いや音色にこだわり、どこか温かみのある木魚を製造しています。仏教用具としてだけでなく、装飾品としても人気があります。

木魚の選び方と手入れ

木魚を選ぶ際には、以下のポイントに注意することが大切です。

  • 材質の確認: 木魚の材質によって音色が異なります。檜や欅などの木材が使われている木魚は、音色が豊かで深みがあります。
  • サイズと形状: 木魚のサイズや形状も音色に影響を与えます。用途や好みに応じて、適切なサイズと形状の木魚を選ぶことが重要です。
  • 手入れ: 木魚は定期的に手入れをすることで、長く使用することができます。木材が乾燥しないように保湿し、定期的に表面を磨くことで、美しい音色を保つことができます。

まとめ

木魚は、仏教の儀式や修行に欠かせない打楽器であり、深い音色と独特のリズムが特徴です。仏教の精神性を体現し、心を落ち着ける役割を果たしています。木魚の選び方や手入れについても理解を深め、正しく使うことで、その本来の効果を最大限に引き出すことができます。日本の伝統文化に触れながら、木魚の魅力を感じてみてください。